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脂質異常血症の治療について

2022年に動脈硬化性疾患予防ガイドラインが5年ぶりに改訂されました。これまでは冠動脈疾患の予防のみを目的としていましたが、同じく動脈硬化を基盤とするアテローム血栓性脳梗塞の予防も対象になりました。このガイドラインには、日本の久山町でのデータが使用されています。因みに久山町は福岡市の隣にあって、町民が協力して長期間にわたり健康データを追跡できるようにしており、"The Hisayama Study"として非常に精度の高い研究で世界的に知られています(茅乃舎という素敵なレストランがあり町を貫く川沿いに蛍が沢山飛んでいて大変綺麗でした)。

このガイドラインでは久山町研究を基にした久山町スコアが脂質管理目標を設定するのに用いられています。10年間での冠動脈疾患またはアテローム血栓性脳梗塞の発症リスクが2%未満を低リスク、2-10%を中リスク、10%以上を高リスクと分類し、これらは下記のポイントの合計と年齢から決定されます。

*水色が低リスク、黄色が中リスク、赤が高リスク

なお、上記のスコアを利用するにあたっては、まず冠動脈疾患またはアテローム血栓性脳梗塞の既往があるかに注目します。これらの疾患にならないことが目標であるため、既に罹患していれば生活習慣の是正とともに薬物治療を考慮することになります(二次予防)。

次に糖尿病、慢性腎臓病、末梢動脈疾患の有無があるかを確認し、あれば高リスクとしてまず生活習慣の改善を行った後に薬物療法を行うかを検討します(一次予防)。

一次予防、二次予防それぞれにおいて目標とするLDL-C、HDLコレステロール(HDL-C)、中性脂肪(TG)は以下の通りです。

*糖尿病において末梢動脈疾患、喫煙ありの場合に考慮、**急性冠症候群、家族性高コレステロール血症、糖尿病、冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞のいずれかを合併する場合に考慮、***10時間以上の絶食を空腹時とする(水は可)、****頭蓋内外動脈の50%以上の狭窄、または弓部大動脈粥腫(最大肥厚4mm以上)・TGが400 mg/dl以上の場合や随時採血の場合はnon-HDL-C(=TC-HDL-C)かLDLーC直接法を使用。ただし高TG血症を伴わない場合はLDL-Cとの差が+30 mg/dlより小さくなる可能性に注意。

なお、脂質異常症の診断において、TG値は従来空腹時の値のみが採用されていましたが、食後も含む随時TG値が167 mg/dlまたは210 mg/dl以上の場合に突然死のリスクが上昇することが分かっており、今回から随時TG値も採用されました(175 mg/dl以上)。

*10時間以上の絶食を空腹時とする(水は可)、**これらの場合は高リスク病態がないかを検討 ・TGが400 mg/dl以上の場合や随時採血の場合はnon-HDL-C(=TC-HDL-C)かLDLーC直接法を使用。ただし高TG血症を伴わない場合はLDL-Cとの差が+30 mg/dlより小さくなる可能性に注意。・HDL-C単独では薬物介入の対象とはならない

これらのように、リスク評価や治療目標の設定はやや複雑になっています。

 

動脈硬化予防のための生活習慣の改善方法として

1.禁煙及び受動喫煙の回避

2.多量飲酒を避ける (AUDIT 7点以下を目標)

3.適正な体重を維持する(肥満においては総エネルギー摂取量を減らす)

4.適正な総エネルギー摂取のもとで、飽和脂肪酸を減らすか不飽和脂肪酸に置換する

5.コレステロール摂取量を制限(高LDL-C患者では200 mg/日未満)し、食物繊維摂取量を増やす(日本食パターン推奨)

6.1日合計30分以上の有酸素運動を週3回以上

などが挙げられています。

薬物治療としては、LDL-C低下薬とTG低下薬に大きく分けられます。LDL-C低下薬の代表は効果に優れエビデンスが豊富なスタチンです。年齢や腎障害・肝障害など背景疾患によって薬剤の選択時に注意すべきこともあり、有害反応がでないか定期的に血液検査にて確認して参ります。

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