事務ブログ 閉塞性無呼吸の治療歴史編
皆様、こんにちは。ちゃたに脳神経すいみんクリニックに勤めて3年になる事務です。
突然ですが、みなさんは日々の生活で呼吸を止めることってありますか?
当たり前に無意識に出来ている『呼吸』。私は海に潜るのが好きなので、息止めをして潜ることもありますが、1分くらいすると少しずつ苦しくなってきます。
息を吸うために水面に浮上する度に、「人間は地上でしか生きられないんだなあ!!」と改めて実感します。
(もちろん宇宙技術によって宇宙空間へ、アクアラングという素晴らしい重器材の開発によって海中へ潜れる時代ですが、あくまで身ひとつではという意味で)
呼吸が止まって1分経過すると体内の酸素濃度は急速に低下し、二酸化炭素の増加により苦しくなります。この苦しさは体が呼吸再開を促すサインです。
よほどの必要性がない限りは、日常生活で呼吸を止めることなんてそうありませんよね。
でも、皆さんが気がつかないだけで眠っている間に何度も呼吸が停止しているとしたら、なんだか心配になってきませんか?
睡眠時無呼吸症候群では、眠っている間に低呼吸や無呼吸が繰り返し起こり、その反応としてしばしば睡眠からの微小覚醒(arousal)や覚醒(awaking)を伴います。
当院では本当にさまざまな『睡眠時の悩み』を持たれた方から予約のお電話を毎日いただいておりますが、中でも
「いびきがひどい。呼吸が止まっていると周りに言われる」
「朝起きた時に息してなかったのか、息苦しさが残っている」
と、睡眠時無呼吸症候群を心配してご来院される患者様が年々増加をたどる一方です。
そんな中、2025年12月6日に第3回目となる『OSHNetスリープセミナー』が芦屋で開催されましたので、今回も参加させていただきました!


このセミナーを開催するNPO法人OSHNetは、睡眠に関連する疾患についての正しい知識や最新の睡眠医学情報を、医療従事者のみならず一般の人々においても広め、まずは良い睡眠の習慣(夜更かしや、アルコール・カフェインの不適切な摂取を避けるなど)を送ることが大前提であることを伝え、より充実した生活が送れるようにという目的で活動しています。
この度のセミナーでは『閉塞性無呼吸』 について、その生理学的仕組み、病気と認められるようになった歴史、その診断方法と治療法に至るまでを関西電力病院睡眠関連疾患センターの医師の方々、臨床検査技師さんからたくさん掘り下げていただきました。その中に、閉塞性無呼吸(OSA)の外科手術の治療の歴史の話がありました。
お話いただいた関電病院睡眠関連疾患センターの三原丈直先生は、これまで耳鼻外科医として手術をされてきたとのことで、実際の手術執行時の写真も見せていただいたりと、なかなか見たり聞いたりできない貴重な体験ができました!(三原先生のトークがまたおもしろくて、始終笑いが絶えなかったです)
その内容を含めながら、閉塞性無呼吸の歴史を紐解きつつ、今回のセミナーで私が強く感じたことをこのブログに書きたいなと思います。
さて、『睡眠中の無呼吸』といっても実は2タイプあることはご存じでしょうか。
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と中枢性睡眠時無呼吸(CSA)です。

(図:セミナー資料より抜粋)
上図の左側は14秒間呼吸が止まっていますが、呼吸停止中でも胸部と腹部は動いているのがわかります。一方右側では胸部も腹部も共に運動が停止しているのがわかります。
次に呼吸の生理的メカニズムを示します。

息を吸う時は横隔膜が収縮して下がり、肋間筋が肋骨を持ち上げて胸郭が広がり(陰圧になり)肺に空気が入ってきます。このとき、胸部と腹部が同時に膨らみます。息を吐く時はこれらの筋肉が緩んで胸郭と腹部が縮み、肺の弾性で空気が押し出されます。ですので、
先ほどの図の左側は、『呼吸をしようと胸部と腹部は動いているけれど、それより上の気道が閉塞(主に舌の落ち込みによる)しているために息ができてない』ということになり、右側は『気道閉塞はないのに横隔膜と胸郭の運動が正常に機能していないため呼吸ができていない』ということになります。
前者を閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)、後者を中枢性睡眠時無呼吸(CSA) と呼びます。
当院に無呼吸で悩まれてご来院される方のほとんどは閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の方です。原因として肥満による舌の肥大がよく知られていますが、痩せていても顎口腔の形状が原因となって閉塞を来している場合も少なくありません。
OSASによって、中途覚醒、日中の過度の眠気、心身への悪影響、パフォーマンス低下、はたまた 高血圧、糖尿病、心筋梗塞、脳卒中、認知症などを発症するリスクが高まることが知られています。
治療法は重症度や状態によって異なりますが、肥満があれば減量、体位変換法(横向き寝)、口腔内装置(マウスピース)、CPAP、場合によっては外科手術などがあります。詳しくは是非院長のブログをご覧下さい。
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ここからはセミナーで聴かせていただいた興味深かった「外科的治療」をざっくりですが、ご紹介してみたいと思います。
みなさん、OSASの手術っていつからされるようになったと思いますか?
『睡眠時無呼吸症候群』という疾患概念が確立される以前の話ですが、1969年にW.Kuhlo博士という方とE. Doll博士という方が、重度の睡眠時無呼吸(高度肥満による睡眠中の呼吸障害(ピックウィック症候群))に対して「気管切開」による気道バイパスが劇的な治療効果をもたらすことを報告しました。
同時期に、日本でいびきの治療として「口蓋垂軟口蓋咽頭形成術」の発表がされました。
池松武之亮という人が1952年からいびきの治療研究を始め、「いびき」を病気として扱うべきだと世界で初めて主張し、その後8000例以上の咽頭手術を行ったそうです。 気管切開はやはり危険度も高く、チューブ管の扱いなど難しいこともあり、咽頭を切る形成術が主流となっていったそうです。

(セミナー資料より)
1981年に、これまでいびき治療として行われていた形成術は、OSASのための治療として確立されるようになります。上の術前・術後の写真は三原先生執刀のものではないですが、セミナーでは実際に行われた写真を見せてもらいました。この手術は誰でも出来るわけではなく、まずその人の咽頭上下方向の空間が十分にある場合でないと効果は認められず、危険を伴う手術であることと、長期的にみて安全性も踏まえた上で本当に手術以外の方法では改善が図れないかなど慎重に患者さんとお話されてから手術されていたそうです。高度なスキルが求められるのですね~。
また時を同じくして1981年に初のCPAP療法が誕生します。1998年に保険適用として認められました。今ではOSASの治療としてみなさんよくご存じのCPAPですが、初期のものはこんな大きな機械だったようです。今では旅行先や出張先でも携帯できほど小型化していますが、この40年での進化はすごいですね。また症例研究が進み、これまで主流となっていた咽頭形成術は、閉塞性無呼吸・低呼吸を確実に正常化することは難しいと考えられるようになり、外科的介入を伴わないCPAP療法や口腔内装置(OA治療)による矯正などが主流となっていきます。
(セミナー資料より)
比較的最近の新しい治療法も少しご紹介します。
2021年 舌下神経電気刺激療法がOSAS治療として日本で保険適用となる

(セミナー資料より)
「舌下神経電気刺激療法」とは、舌を動かす神経である舌下神経を電気で刺激して、舌を収縮させ前に出すことで喉を広げるOSASに対する新しい治療法です。寝る前にコントローラーのスイッチをオンにすると埋め込んだ装置が作動して電気刺激が舌を動かし、無呼吸の軽減をはかるものだそうです。CPAP療法が続けられなかった18歳以上の方(肥満指数BMIが32未満)が主な適用条件になっています。ただ、三原先生によると、上図にあるように、いろいろ神経が通っているので刺激ユニットの埋め込み場所が少しでもズレたりすると逆効果に働いてしまうようなこともある、これまた行うにはかなり高いスキルを要求される手術だそうです。
ここまで外科的治療やCPAPの登場時期などを時系列に並べてきましたが、なんだかこれまで以上に現在のCPAP治療やOA治療に『なんという素晴らしい救世主!!』と思えてきました。昔に比べて今は、患者様の希望や費用や形態に合わせてOSASの治療の選択肢が増えたということです。ちなみに、重度のOSASの場合でも、CPAP治療は圧設定などがしっかりされていれば95%以上の改善効果があるとされています。(手術療法の場合は50%という数字が出ていました)
昔は肥満の男性がなりやすいと思われていたOSASですが、肥満が無い方や女性でも骨格のせいでなってしまうことも少なくありません。高血圧や糖尿病がある方もOSASを合併しやすいと報告されています。原因もさまざまなので、治療法の選択肢は多いほうがいいですね。
一方CPAPをつけても日中の眠気がとれない場合は『スリープヘルス(睡眠にまつわる習慣)の悪さ』があるかもしれません。
諸外国と比べて日本人全体で睡眠時間が短いという報告がありますが、他にも睡眠の質を低下させる習慣(夜更かし、質を下げる飲食習慣、ストレス要因等)が本来の生理機能の不具合を生じていて、OSASを解消したとしても他の原因で睡眠がとれていない可能性があります。
当院ではOSAS疑いの方であっても、問診票にて睡眠時間や飲食習慣の確認をしています。睡眠の問題が存在するとき、その原因が一つとは限らないからです。
私が睡眠を強く意識しだしたのは、このOSHNetスリープセミナー第一回目を受けてからです。なんなら私はそれまでずっと、「寝る時間なんてもったいない」「眠らなくて済んだらもっといろいろ出来るのになあ」なんて考えてました。しかし関西電力病院睡眠関連疾患センターの立花先生のお話を聞いて、きちんと「睡眠のメカニズムの知識」を理解することが大事で、それこそが本来の『自然と眠れる』状態への近道であると確信するに至りました。(立花先生から聞いたお話は、第一回目の事務ブログにまとめてあるのでご興味あればご覧下さい) → 事務ブログ 『睡眠の質』を本当に高めるのは。。。?
当院は内科に加え専門診療として睡眠を診ているクリニックですし、睡眠について知り得た知識や感じたことを発信していくことは、私が変わったように、きっと睡眠リテラシーの普及にほんの少しでも貢献できるかもしれないと思いながら今回もブログを書かせていただきました!
ここまで読んでいただきありがとうございました!みなさん今日もよい睡眠を。



