翻訳に参加した医学書が刊行されました
関西電力病院睡眠関連疾患センター/関西電力睡眠医学研究所の立花直子先生からお声がけいただき、「OXFORD HANDBOOK OF SLEEP MEDICINE: THE ESSENTIAL GUIDE TO SLEEP MEDICINE, FIRST EDITION」の翻訳に参加させていただきました。
この本はイギリスのオックスフォード大学出版局が作成したもので、正式翻訳許可を得て刊行されました。翻訳者は立花先生と、先生に薫陶をうけた日本の若手(学問の世界では私も堂々と若いといえるようです)研究者が中心となっています。
睡眠を専門としていない医師やメディカルスタッフ、職場の健康管理者にもわかりやすい内容となっており、専門医の私の目から見ても必要で重要な情報が過不足なくすっきりとまとまっていると感じました。
章立てとしては、最初に睡眠のメカニズムの解説があり、続いて不眠症、睡眠呼吸障害(内科的マネジメント、歯科的アプローチ、外科的アプローチ含む)、レストレスレッグズ症候群と周期性四肢運動異常症、過眠症、概日リズム睡眠覚醒障害、睡眠随伴症(パラソムニア)、小児の不眠、頭痛性疾患、てんかん、痛み、精神疾患、薬物の影響、職場とのかかわりとなっており、非常に広い範囲を網羅しています。必要に応じて少しずつ読んでいますが、知識の整理に結構役立ちます。私は25章の「睡眠とてんかん」を担当しました。
てんかん発作には、発作起始部位によって生じやすい時間帯に違いがあるということは、紀元前から知られていました。睡眠中は皮質の活動が同期しやすくなるためてんかん性放電がみられやすくなりますが、いつ発作が起こるかについてはてんかん発作の原因となる場所によって異なります。睡眠中に発作のおきるてんかんの代表は前頭葉てんかんです。その他私の章では、てんかんを悪化させる睡眠時無呼吸症候群などの睡眠関連疾患やそのマネジメント法、抗てんかん薬の睡眠への影響についても解説いたしました。
原書の序文に書かれていることですが、睡眠医学は非常に新しい分野で、睡眠時無呼吸症候群は1975年頃までは名前すらなく、1990年初頭までは女性には起こらないとまで信じられていました。しかしながら一般的な開業医を受診する外来患者のうち10%は睡眠関連疾患をかかえており、非常に希なナルコレプシーにもおそらく複数回遭遇するだろうと述べられていることから、軽視することのできない分野です。
一方で、立花先生が監訳者序文で述べられている通り、専門的に睡眠診療をしようとすると終夜睡眠ポリグラフィ(PSG)が必要となるもののこれを行うことのできる施設が非常に少ないのが現況です。なぜなら一晩スタッフが寝ずに患者さんの睡眠の様子を観察し、その後7-8時間に及ぶデータを解析することになるため、人的にも技能的にも高いハードルがあるからです。結果として、睡眠医学に取り組む医師が不足し、多くの患者さんが未診断のままで過ごすということにつながってしまっています。
この本は医師だけでなく患者さんも含めより多くの人に睡眠医学を知ってもらうために作られました。是非手に取ってみていただけましたら幸いです。