事務ブログ 『睡眠の質』を本当に高めるのは。。。?
皆様、こんにちは。ちゃたに脳神経すいみんクリニックに勤めてもうすぐ3年の医療事務です。
11月16日(土)に芦屋市で開催された『第1回OSHNetスリープセミナー』に参加させていただきました。
このセミナーを開催するNPO法人OSHNetは、睡眠についての正確な情報や、睡眠に関連する疾患についての正しい知識を、医療従事者のみならず一般の人々においても広めることで、あらゆる年齢層の人々が良い眠りと目覚めを実現し、より充実した生活が送れるようにという目的で活動しています。
通常、このようなセミナーや勉強会は、その分野に従事している医師や検査技師の方でないと参加できないのが一般的ですが、「第一回目となるこの『スリープセミナー』は、医療事務でも参加可能だから行ってみませんか?」と有り難い言葉をいただきまして参加させていただきました。
日本の睡眠医学において最先端で活躍している関西電力病院の睡眠関連疾患センターの医師、検査技士の方々から直接お話を聞けるという、とんでもなく貴重な時間でしたが、
今回のセミナーで私は『覚醒』した(かもしれません)。
関西電力医学研究所 睡眠医学研究部の立花先生のお話の中で、睡眠生理学や睡眠機能、睡眠医学の教育普及が進んでいる他国の状況などをお聞きし、こんなに真面目に「睡眠」を根本から考えたことがなかったというのがひとつ。これまで、私は「人生の時間とは覚醒している時だけである」というくらい、起きている間のことだけを考えていたし、なんなら子供の時から「寝るなんてもったいない」と思って生きてきたくらいです。
ところで
みなさんは『睡眠の質』を良くするために何かされていますか?
と言いますのも、私自身は特別何かしているわけではないのですが、最近私の友人は、
「不眠症になって睡眠薬も効かないから、ついに5万円の枕をオーダーした」と話してたり、
別の知人はいつも「睡眠の質を高める」というキャッチ入りのGABA入りのチョコレートを持ち歩いていたり。
そして、当院では毎日『不眠』で悩まれている方が多く来られます。
気がついたら、大半の方が不眠で日常生活に支障を来している世界なわけです。スマホの普及された生活環境や勤務形態などが確立された中で働いていかないといけない現代社会なのだから、ストレスも貯まるし、電気の無い時代じゃあるまいし、ぐっすり眠れる時代ではない。なんとなく『不眠社会』が当たり前で、そんな社会であっても睡眠を良くできるにはという方法や商品がたくさん出てきました。
それが普通のことすぎて、「その社会が本当に当たり前なんだろうか」って疑問に感じたことがこれまで無かったのですが
セミナーで衝撃を受けたのは、
日本人の睡眠時間は世界でも最短である。ということ。
(OECD time use across the world 2021より抜粋)
これを見て思い出したのが、大学生の時にドイツのフライブルグ大学に半年留学していた時、スーパーやレストラン、薬局も、平日夕方にはすべて閉まってしまい、日曜日は一日中閉まってたことに唖然としたこと。授業中にそのことを先生やクラスメイトに伝えると、
「逆になんで日本はそんなに働かないといけないのか?」と質問されて閉口したものです。
この図は勤労者も勤労者でない方も含んだ平均のようですが、勤労者だけに限ってみると日本人の睡眠時間はさらに短く、1日7時間に満たない人が7割を超えているそうです。
米国のNational Geographicは、最新のサイエンス、地理学、人類学、自然・環境学、歴史文化、などの記事を扱う世界で最も多く読まれている雑誌のひとつです。2018年8月にNational Geographic 特集「睡眠」では、なんと日本人が電車で頭を垂れて眠っていたり、通勤中立ったまま眠っている写真と共に、日本の睡眠不足が取り上げられていたそうです。
睡眠時の無呼吸やその他さまざまな原因での睡眠不足が生活習慣病を引き起こす原因となったり、死亡リスクを上昇させたり、交通事故を引き起こす原因となるなど、日本でも今ようやく認知されつつありますから、(詳しくは、院長ブログの睡眠時無呼吸症候群の治療を参照)
当院でも無呼吸の治療に来られる方がこの3年でどんどん増えて来ているのは、スリープヘルスと疾患の情報が社会で認知されてきたということです。
米国の睡眠医学研究所ではすでに2015年の段階で、『睡眠を7時間切るとどうなるか?」の研究のもと、睡眠不足がどのような疾患や問題を引き起こすことになるかを国として告示しており、睡眠リテラシーの教育普及が進んでいると知りました。
ちなみに、寝貯めは意味が無いそうです。休日に貯めて寝ようとしても、帳消しどころか
睡眠負債(Sleep debt)
となっていき、仕事中に眠ってしまったり、授業中に起きてられなかったり、電車で必ず寝てしまうというような日本で見られる現象、いわゆる睡眠負債を抱えた国となっているのだそうです。
「じゃあ、睡眠時間だけ毎日確保すればいいのか?」
というと、そう簡単でもないようです。。。なんと
毎日、地球のリズムにヒトの概日リズムを合わせ直さないと、どんどん入眠時間も起床時間もズレていく
のです!!
みなさんは、私たちヒトを含む動物が『生体時計』を持っているのはご存じだと思います。生体時計は地球のリズムとは少しズレているそうですが(地球が24時間、生体時計は26.3時間)
それを時計の針を合わせ直すかのように働いてくれているのが、脳の松果体から分泌されるメラトニンという神経伝達物質。
このメラトニンは要は「夜だよ~」ということを伝える物質です。 夜になるとこのメラトニンが増えます。逆に日光の当たる日中はメラトニンが減ります。この物質の増減で私たちは地球のリズムと生体リズムを勝手に調整できているから、朝になったら起きて働き、夜になったら眠るということができているのです。
私はこのメカニズムは、院長から2年ほど前にお借りした「極論で語る睡眠医学」(河合 真 著) を読んで知ってはいたのですが、「そうなんだなあ」くらいでヒシヒシと衝撃を感じる程身近に思ってませんでした。が、
今回のセミナーで立花先生が教えてくれた話が面白かった。米国の睡眠医学施設はとんでもない規模の実験を行っていて、実際にそのリズムがズレることを証明すべく、宇宙センターのような実験施設を莫大な費用をかけて作り、さまざまな年代の被験者を募り、半年ほどの期間、一切時間がわからない状態にして生活をしてもらい、その睡眠データを出したそうです。完全に外界からシャットアウトですから、テレビも携帯ももちろん無し、ご飯もお腹が空いたら部屋のインターホンを鳴らせばいつでも運んでもらえて、窓など一切なく、地球のリズムが分からない状態の生活。その結果がこちら。
これはセミナーから戴いた資料を載せさせていただいています。ちょっとぼやけて分かりにくいかもしれませんが、これはその治験者の実際の睡眠時間の記録です。
ものすごく分かりやすいと思いますが、実験施設に入ってから日に日に入眠時間がズレていっています。本当に生体リズムは、日光がないと26.3時間で刻むってことですね、面白い!
まだまだ沢山お話は聞いたのですが、ここまでの内容だけでも、本当の意味で『睡眠の質』を高めるためには
高い枕を買ったり、GABA入りチョコレートを買う前に、その方が
・ちゃんと7時間以上寝ているのか
・地球リズムに生体リズムが合う生活をしているか(努力をしているか)
ということを 考えたことが有るか否か が重要なんだと私はものすごく思ったわけです。枕を買った友達は、夜中2時に帰宅するヒトですし、GABAを接種している友達は、日焼け防止と美白に人生を賭けているのでなるべく朝外に出ませんから、早速この事実をお伝えしないといけません。
もちろん、適切なスリープヘルスを守っているのに関わらず、日中の強い眠気や、脳神経および内科的な理由による不眠、心因性からくる睡眠障害、無呼吸などによる不眠などが存在しているので
その場合はそれに応じた必要な治療が必要になってきます。ですが、まず、日本人みんなが「睡眠不足は当たり前」ではなくて、「睡眠がとれることが前提」の現代社会になるように、なんとなくじゃなくて
金融リテラシー並に睡眠リテラシーも、正しく意識されていけばいいなと思います。
長くなりましたら読んでいただきありがとうございました! 今夜も皆様が、よく寝て、明日元気な体で目覚めますように。