関西電力病院睡眠カンファ#2
2020年8月
関西電力病院Web睡眠カンファレンス
7月のテーマは”思春期の睡眠”でした。
一つ目の論文は、昼寝の効果を解析したものです。15-19歳の被検者57名を、5日連続で5時間の入床時間に制限してその後の2日間は9時間に入床時間を伸ばすというサイクルで生活してもらった群と、これに1時間の昼寝を加えた群とにわけて脳波記録を行い、睡眠時間や深さの違いを調べました。すると、昼寝をした群の方が夜眠るときの睡眠圧(眠りに入ろうとする力)が弱まったのですが、両群とも2日間9時間寝た後も睡眠の状態が元の状態に戻っておらず、昼寝の効果はあるものの脳波上は睡眠時間不足を補える程の効果はないという結論でした。
他には、MRIを使って睡眠習慣や学業成績と脳の容積との関連を調べたところ、平日の睡眠時間不足があると脳の白質の量が減って学業成績も下がるという論文や、14-17歳の被験者の睡眠時間を6.5時間に制限し10時間睡眠を取らせた群と比べたところ、テストの点数がさがり集中力が低下して落ち着きが見られなくなったという論文もありました。
ここであらためて気をつけないといけないことは、10代の子供においても成人よりもしっかりと睡眠時間を確保する必要があるということです。スマホやタブレットを使っていると、寝る時間が遅くなって睡眠時間が短くなり、質も悪くなって日中の強い眠気が生じてくるという論文もあり、スリープヘルスを保つことの重要性がよく分かります。親の役割は大きいでしょうね。
因みに欧米では始業時間が日本より大分早いそうです。例えばアメリカのあるところでは始業は7時30分と早く、睡眠時間不足から運転事故(16歳から運転できる)との関連が言われています。シンガポールの研究では7時30分から8時15分に始業を遅らせたところ、寝るのは9分遅くなったが起きるのは32分遅くなり全部で23分睡眠時間が増えたと報告していますし、50分始業時間が遅らせると睡眠時間が30分増え眠気や居眠りが減り、逆に30分早めると睡眠時間が14.8分短くなり、居眠りする率は変わらないものの(面白いですね)眠気を訴える人の割合は増えた、という論文もありました。このようなことから始業を遅らせる試みが度々海外でされていますが、なかなか定着することが難しいようです。始業時間が早くない点は、日本の学校教育の良い所なのかもしれませんね。
日本ではどちらかというと、電車通勤のサラリーマンが始業時間問題に巻き込まれているのかもしれません。大阪に勤務していたときに聞いた話の一つに、琵琶湖のあたりに一軒家を”購入してしまった”方が、電車の中で睡眠時間不足を補うためにわざわざ5時台の始発に乗り、勤務地まで座って眠るという生活をされている、というものがあります。実際に私の患者さんにも似たような生活をされている方がいらっしゃいました。果たして広島ではどうなのでしょうか。睡眠時間確保は子供、大人問わず重要なテーマですね。