ここではブログで取り上げた、医療に関する記事のみをピックアップしてご紹介いたします。

202012

関西電力病院Web睡眠カンファレンス

テーマはHypersomnia(過眠症)でした。過眠症の代表はナルコレプシーという病気で、意図せず眠ってしまう病気です。1877年に初めて論文に記述がされました。情動脱力発作(カタプレキシー)という、笑ったり面白いことを言おうとするなど感情が動いたときに力が抜けてしまう症状があり、カタプレキシーをともなうタイプをナルコレプシー1型、伴わないタイプを2型といいます。小児では情動に関係なく舌が落ち込んだり口が空いたりと大人と様子が異なります。眠気のため学業に支障を来したり仕事を辞めさせられたりするケースがあり、私の経験では大学時代は授業中寝ていてもなんとか卒業できたが、社会人になった途端研修や重要な会議中に眠ったりして問題が表面化するパターンをよくみてきました。典型的な例では薬剤で眠気が和らぐことや、眠っては危険な仕事は避けるなどの職業選択にもかかわるため、早期の診断と治療が望ましい疾患です。2000年にナルコレプシー1型はオレキシンという覚醒にかかわる物質の欠乏が関連している場合が多い(93%)ことが明らかになりました。

診断には、まず夜に終夜睡眠ポリグラフィ(PSG)を行います。夢を見るとされるREM睡眠期は健常者では入眠後60-90分後におとずれますが、ナルコレプシー患者さんでは入眠して20分かからず出現することがあります(SOREMPs)。また中途覚醒が多く確認されることがあり、昼間寝てしまうからといって睡眠時間が多い病気というわけではありません。

PSGを行った翌日朝から睡眠潜時反復測定検査(MSLT)という昼寝を日中に2時間毎に4-5回繰り返す検査を行います。健常者では通常眠るまでの時間が長くなるか眠れなくなってきますが、ナルコレプシーの場合は平均で8分かからず眠ってしまいます。この検査は診断および治療の導入に不可欠なもので、オレキシンが欠乏した患者の91%で異常と判定できますが、疑陽性の問題や検査結果の再現性が低いのではという指摘もあります。完全な検査とまでは言えないものの、それでもMSLTで平均睡眠潜時が8分以下かつSOREMPs15分以内)が2回以上認められれば感度93.5%、特異度97.8%という精度で診断できるとされるため、睡眠時間不足などがない状態できちっと行なう事が診断に有効です。

ナルコレプシーの有病率は約0.02%と低いですが、力が抜けるのや眠いことが体質だと思っていたり一過性脳虚血性発作などと間違えられていたりする場合があり、実際はもっと多いかもしれないと言っている研究者もいます。ナルコレプシーを発症して2年間はカタプレキシーはなくても、オレキシンが低下している場合は30年間で50%がカタプレキシーを来すことが報告されました。ある種のHLA(白血球の血液型)が関係しているなど遺伝との関係が示唆されますが、ナルコレプシー2型では15%の人しかオレキシンは欠乏しておらず、類縁疾患の特発性過眠症とともに原因ははっきりと解明はされていません。

 

治療ですが、欧米と異なり日本では使用できる薬剤が非常に限定されています。その為というわけではありませんが、計画的な午睡(ナルコレプシーは昼寝をすることで眠気を抑えやすいです)や規則正しい生活をして睡眠時間不足に陥らないなどという、基本的なことを守ることがとても重要です。睡眠時無呼吸症候群があればその治療も考えなければなりませんし、トータルに睡眠を評価できる施設でまずはしっかりとした鑑別を受けることが重要でしょう。

 

20208

関西電力病院Web睡眠カンファレンスの7月のテーマは思春期の睡眠でした。

一つ目の論文は、昼寝の効果を解析したものです。15-19歳の被検者57名を、5日連続で5時間の入床時間に制限してその後の2日間は9時間に入床時間を伸ばすというサイクルで生活してもらった群と、これに1時間の昼寝を加えた群とにわけて脳波記録を行い、睡眠時間や深さの違いを調べました。すると、昼寝をした群の方が夜眠るときの睡眠圧(眠りに入ろうとする力)が弱まったのですが、両群とも2日間9時間寝た後も睡眠の状態が元の状態に戻っておらず、昼寝の効果はあるものの脳波上は睡眠時間不足を補える程の効果はないという結論でした。

他には、MRIを使って睡眠習慣や学業成績と脳の容積との関連を調べたところ、平日の睡眠時間不足があると脳の白質の量が減って学業成績も下がるという論文や、14-17歳の被験者の睡眠時間を6.5時間に制限し10時間睡眠を取らせた群と比べたところ、テストの点数がさがり集中力が低下して落ち着きが見られなくなったという論文もありました。

ここであらためて気をつけないといけないことは、10代の子供においても成人よりもしっかりと睡眠時間を確保する必要があるということです。スマホやタブレットを使っていると、寝る時間が遅くなって睡眠時間が短くなり、質も悪くなって日中の強い眠気が生じてくるという論文もあり、スリープヘルスを保つことの重要性がよく分かります。親の役割は大きいでしょうね。

 因みに欧米では始業時間が日本より大分早いそうです。例えばアメリカのあるところでは始業は7時30分と早く、睡眠時間不足から運転事故(16歳から運転できる)との関連が言われています。シンガポールの研究では730分から815分に始業を遅らせたところ、寝るのは9分遅くなったが起きるのは32分遅くなり全部で23分睡眠時間が増えたと報告していますし、50分始業時間が遅らせると睡眠時間が30分増え眠気や居眠りが減り、逆に30分早めると睡眠時間が14.8分短くなり、居眠りする率は変わらないものの(面白いですね)眠気を訴える人の割合は増えた、という論文もありました。このようなことから始業を遅らせる試みが度々海外でされていますが、なかなか定着することが難しいようです。始業時間が早くない点は、日本の学校教育の良い所なのかもしれませんね。

 

 日本ではどちらかというと、電車通勤のサラリーマンが始業時間問題に巻き込まれているのかもしれません。大阪に勤務していたときに聞いた話の一つに、琵琶湖のあたりに一軒家を購入してしまった方が、電車の中で睡眠時間不足を補うためにわざわざ5時台の始発に乗り、勤務地まで座って眠るという生活をされている、というものがあります。実際に私の患者さんにも似たような生活をされている方がいらっしゃいました。果たして広島ではどうなのでしょうか。睡眠時間確保は子供、大人問わず重要なテーマですね。

 20207

新型コロナウィルスは私たちの生活を大きく変え、様々な影響を与えています。最近、コロナには感染していなくても昨今の環境変化をきっかけに体調を崩してしまった患者さんが少なくありません。私自身も健康にもかかわらず様々な負の影響を受けてきました。そんななか唯一良かったと思えることが、毎月行われる関西電力病院睡眠関連疾患センターによる勉強会にWeb会議方式で参加できるようになったことです。平時ならば大阪から転居した時点で最新の睡眠医学に触れにくくなってしまっていたと思います。勉強会ではいつも約2時間かけて最新の研究に触れるのですが、6月のテーマはSleep performanceについてでした。

みなさん、歴史的に睡眠医学は欧米では軍事研究と関係があることをご存知でしたか。欧米では大量の資金を投入して睡眠を研究し、どうやったら兵士の眠気を減らしてパフォーマンスを上げるか、また睡眠時間不足でもパフォーマンスを維持するにはどうすればいいかなどが調べられてきたそうです。なんだか恐ろしいことで日本では考えもつきませんが、怪我や事故を防止するための情報は、一般社会にも役立ちそうです。

 まず基本的なこととして、睡眠時間不足は認知機能の低下をおこし、慢性に睡眠時間が不足している場合は一晩ぐっすり寝たぐらいでは回復しきらないことが知られています。つまり毎日しっかりと睡眠時間を確保するという当たり前のことが大事なのですね。7-8時間眠ることでパフォーマンスが保たれるという研究結果があります(注:高齢の方の場合は睡眠時間が短くなりますので7時間を目指す必要はありません)。また、睡眠時間が足りない場合の対処法を研究する目的で、思春期の被験者を、睡眠時間を6.5時間に制限した群と、睡眠時間5時間+夕方に1.5時間の仮眠をした群に分けて比較した場合は、後者の方が覚醒度や集中力の低下が少ないという研究もありました。この研究は睡眠時間不足の時の仮眠の有効性を示してはいますが(通常推奨される仮眠は15-30分程度であり90分は長すぎると思いますが)、最もパフォーマンスが良いのはやはり十分睡眠時間を確保したときですので、スマホなどで夜更かしせずきちんと眠るようにしましょう。また、睡眠時間を5時間に制限した上でカフェインを投与して認知機能に与える効果をみた研究もありましたが、プラセボよりましだったのは2-3日間しかありませんでしたので、やはり無理せず寝ましょう。

 結局はきちんと睡眠時間を確保することが最も大事ということになりますが、そうは言うけれどなかなか寝付けない、寝ても眼がさめてしまう、結果昼間にやたらと眠いという方もいらっしゃると思います。そこは医学的な介入が必要な状態かも知れず、これについてはまた触れていきたいと思います。

 

 

20207

広島大学てんかんカンファレンスに参加いたしました。Web会議方式で県外の病院も含めて治療や解釈が難しい症例の検討を行っています。現在広大の会場は学外の方は入室できません。

今回議題にあがった症例には、薬でなかなか発作が治まらず、脳波でも発作が複数の箇所からでている様に見え、頭部MRIでも病変がはっきりしない例が多く、手術をするにしてもどこを切ったらよいか分からないというケースが複数ありました。

 

このような場合はやはり、複数のドクターの目で議論することが大事です。

 

脳波で捉えきれない発作波が脳磁図で捉えられることがあり、広大はこれまで私が赴任した施設の中で最も脳磁図を活用しているように感じています。脳磁図の記録、解析にはそれなりに手間がかかりますので、元解析者としては嬉しいですね。

 

広大にてんかんセンターが出来てくれたおかげで、一般医院専門医のいる医院または病院てんかんセンターというネットワークが形成されましたので、広島近郊の患者さんや医師にとって大変心強い状況になっています。

 

2020年7月

先日、広大病院でのてんかんカンファに参加してきました。

 

Web会議システムを使って、各病院から症例が3-4例呈示されます。

 

主に、手術の適応になるか、なるならどのように手術するかが議題です。

 

基本的には抗てんかん薬で発作が抑制できない方が対象で、発作様式や脳波所見はもちろん、頭部MRI、脳血流シンチグラフィ、脳PETなど複数の検査を組み合わせて判断します。

画像で異常がはっきりしない等で切除部位を決めきらない場合などは、一度硬膜下電極を入れるために開頭し、その検査結果を元に切除部位を決めることもあります。

その他、患者さんの優位半球(言語野などがある半球)がどちらにあるのかも、大事な要素です。優位半球を切除する場合はできるだけ言語や記憶に影響を与えないようにしなければならないからです。

 

また、磁場が生体内の電導率の影響を受けないという性質を利用して、脳磁図(MEG)の所見も利用されます。開頭せずとも脳波よりも正確にその磁場活動が出現している場所を同定できますが、ランニングコストが高く一部の施設にしかありません。特に冷却に用いるヘリウムが高価だそうで、ヘリウム入りの風船を扱っているお店も入手しにくく困っているとか。。重要な物質であるが故にアメリカが輸出を絞っているのが原因のようです。

 

MEGは痛みなどの患者さんへの身体的負担がないため、私も九大で臨床と研究に使っていました。ノイズ対策などなかなかコツのいる機械でしたが、解析システムを理解するのに工学部で習った知識が役に立ちました。

 

てんかんカンファ自体は九大時代から静岡てんかんセンター時代までずっとかかわっていたので、戻るべき場所に戻ってきたかのような、色々と懐かしい気持ちで参加したのでした。

20204

過日、アメリカよりRPSGTの認定証が届きました。

 

RPSGTとはRegistered Polysomnographic Technologist(米国睡眠検査技師資格)の頭文字で

 

世界基準の睡眠医学を学ぶ過程で取得が勧められているものです。

 

睡眠ポリソムノグラフィ(PSG)を解読できる技能だけでなく、近年では臨床的な知識も問われるように変わってきています。

 

180分で175問の英文での質問に答える必要があり、高い得点率が求められるためかなりのプレッシャーでしたが良い点数で無事パスすることが出来ました。

 

これは、二年間通った大阪の関西電力病院睡眠関連疾患センターの立花直子部長や睡眠技師の皆様の熱い御指導の賜に他ならず

 

感謝と共に後身のために今年の冬の新大阪睡眠塾にてこの経験をお話させて頂く予定になっています。

 

ちなみにこの資格症はコネチカット州からはるばる旅してきた物で、このご時世ですからしっかりアルコール消毒したのでした。

 

 

20202

201912月に東大構内で行われた、全国てんかんリハビリテーション研究会に参加してきました。

比較的小さな会ではありましたが、東北大の中里教授や愛知医大の兼本教授などそうそうたる顔ぶれが集まり、薬物治療だけで終わらないてんかん診療を目指した熱い想いをぶつけあっていました。

最後の講演で話されたのは、名古屋市のてんかんクリニックが患者さんのために運営しているジャズバーで働かれている患者さんでした。発作のせいで何度も挫折してきたものの、それを受け入れてくれる施設で働くことを通して徐々に自信がついて人生の目標ができたとおっしゃっていて、涙が出そうになりました。

それでどうしてもその施設が見たくなってこの度新幹線で訪問しました。素晴らしい音楽とその患者さんが自信をもって働いておられる姿を見ることができて、感激して帰りました。

経営と患者さんの支援の両方を成り立たせるのはかなり技能のいることだと思いますが、全国にこういう施設が広がってほしいとあらためて思いました。