てんかん図1.jpgここでは、てんかん専門医が患者さんの治療方針をどのように決定しているかについてご説明いたします。

 

1.どんな発作型なのか:

 てんかん発作にははっきりとした強直や痙攣を来すものから、何となくぼーっとするものまで様々なタイプがあります。これを発作型といいます。例えば、右手だけが痙攣するという場合は左脳の一次運動野の手の運動に関係した場所に発作起始部があるのではないかと考えますし(焦点起始発作)、何の前触れもなくぼーっとして記憶がなくなる場合は、両側大脳半球が広く巻き込まれたタイプ、つまり全般起始発作ではないかと考えます。ただし、症状に左右差はあるけれど全般起始発作であることや、本当は焦点起始発作から始まるのだけれど発作が広がった時しか目撃されていないので全般起始発作に見えてしまうという場合も有り、専門医はあらゆる可能性を頭に入れて診察しています。一見てんかん発作にみえますが実は別物である「心因性非てんかん発作(PNES)」も少なくなく(てんかん発作が合併していることもあります)、どんな発作の種類があるのかや、その頻度や持続時間なども参考になります。可能であればビデオで記録いただくと診断の助けになります。

 

2.どんなてんかんなのか:

 てんかん発作型の診断を終えると、続いててんかん分類診断(その発作は何てんかんで起きたのかを考える)に入ります。基本的には①全般起始発作の症例は全般てんかんに、②焦点起始発作の症例は焦点性てんかんに、③焦点性発作と全般性発作の両方をもつ症例は全般性と焦点性の複合てんかんに、④起始不明の発作は起始不明てんかんとなります。更に、年齢、脳波、頭部画像検査、認知機能検査などの情報を基に、てんかん症候群という一定の共通性を有するグループに分けることが出来る場合もあります。こうした分類を正しく行うことが薬剤の選択や治療効果にもかかわるため非常に重要です(図 Fisher. Epilepsia 2017, 高橋. 新小児てんかん診療マニュアル 診断と治療社を基に改変)。たとえば思春期前後に手のぴくつき(ミオクロニー発作)で発症する若年ミオクロニーてんかん(下図)は全般てんかんですが、手のぴくつきに左右差があったりの脳波検査で片方の半球にてんかん波が偏って出現しているように見えたりするため、焦点性てんかんに間違えられれることがあります。この患者に焦点性てんかんに用いられるカルバマゼピン(テグレトール)という薬を使うとかえって悪化することが知られており、いかに分類が治療選択に重要であるかが分かります。

 JME脳波.jpg

3.治療について:

 てんかん治療の中心となるのは抗てんかん薬ですが、てんかん分類だけでなく、年齢や性、併存疾患も参考にして使用する薬剤を決定していきます。1剤目で発作がとまる割合は約5割といわれており、副作用がでたり無効時は2剤目へ変更したり、複数の薬を組み合わせざるを得ないこともあります。ただ併用薬が多くなりすぎると、それぞれの薬剤がどのように相互作用をもつのかが不明確となり発作の抑制にも影響を受けるので、静岡てんかんセンターではほとんどの場合、厳格に3剤までの併用に留めていました。近年上市された抗てんかん薬は副作用が少ないため、新規に投薬する場合はまずこれらを選択しますが、必ずしも発作抑制作用が強いとは限らず、難治の方はてんかんセンターでの経験を活かし、古いけれど発作抑制作用の強い薬をあえて使用する場合もあります。一般に新しい薬は古い薬よりも高いですが、自立支援制度を使用すれば1割負担になりますので使用しやすくなります。 また、十分に内服しても発作が治まりきらない方の中に、外科的治療(手術)の適応になる方もいらっしゃいますので、広大てんかんセンターと連携を取って参ります。

 

4.妊娠/出産について:

てんかんをもつ女性もお子さんを持つことは可能です。治療は、発作の抑制だけでなく赤ちゃんへの影響を考えながら行う必要があります。妊娠中に大きな発作をおこすと事故や早産のリスクが増加しますし、妊娠前1年間に発作があると妊娠期間中に発作が生じるリスクが79.2%に上るという報告(Vajda. Seizure 2015)も有りますので、まずは妊娠前に発作を抑制することを目指します。

気になる奇形発症率ですが、抗てんかん薬を服用していなくても約3%あると言われているものの、その確率をなるべく上げないようにするには、出来るだけ奇形を起しやすい薬を避けつつ、併用薬の種類や量も少なくすることが基本になります。他にも、妊娠中に効き目が低下してしまう薬剤や子供の認知機能への影響が言われている薬剤もあり、複数の要素を考えながら薬剤を選択する必要があります。新しく発売された薬の方が奇形発症率は低い傾向にありますが、効果が不十分だったり副作用のため続けにくい場合は、患者さんの希望をお聞きしながら従来の薬(出来るだけ少量)の使用について相談していくことになります。

奇形のなかでは口唇裂、口蓋裂、心奇形の頻度が高く、これらは妊娠初期におきることや(Pennell. Epilepsia 2001)、病状によっては薬の調整に時間がかかる場合もあることから、妊娠は計画的に行うことが望ましいです。一般に、妊娠中におけるてんかん発作の頻度は、50%で不変、25%で減少、25%で増加といわれています。90%以上の方は通常の出産が可能で、集中医療が必要になるような事態の発現率はてんかんがない方と比べて特に差はないと言われています。一般的には自然分娩が可能で帝王切開が必要なわけではありません。薬の中にはお乳に移行しやすいものがあり赤ちゃんが傾眠になってしまうようでしたら母乳を控えますが、基本的には授乳可能です。九大時代に担当していた方は比較的母乳移行率が高い薬を飲まれていましたが、特に問題はありませんでした。

 

5.運転について

 近年、発作が治まっておらず運転適性がない人が運転をして、大変痛ましい交通事故を起すという事件が相次ぎました。それを受け2014年に道路交通法が改正され厳罰が強化されています。

 しかし、てんかんをお持ちの方もきちんと治療を受け、運転に支障をきたす発作が2年以上なく道路交通法における一定の条件を満たせば、運転適性ありと判断され運転することができます。ただし、大型免許や第二種免許は、治癒(薬をのまずとも発作が5年以上ない場合)したと考えられる場合を除き、運転することができません。公安委員会により運転適性があると認められた方は、この法で定められた権利にもとづき堂々と運転していただきたいと私は考えます。

 運転免許更新時には、質問票に記載してある、「過去5年以内に意識を失ったことがある」や「過去5年以内に体の全体または一部が一時的に思い通り動かせなくなった」という項目に正しく答える義務があります。運転適性の可否の判断は公安委員が行いますが、そのときに主治医の診断書が求められます。ここでいう主治医とは継続して診察している医師を指しますので、当院に通院し始めたばかりの方の場合はしばらく経過をみてからでないと診断書を作成することできません。仮に、公安委員会に運転適正がないと判断され免許を取り消されても、3年未満であれば学科試験と技能試験は免除され少ない負担で再取得することができます。

 てんかんの薬物治療にばかり目が行きがちですが、道路交通法第66条に「何人も、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両などを運転してはならない」と記載がある通り、寝不足や発熱時には運転しないなど、患者さん自身も十分に気をつけて頂く必要があります。

  

6.高齢者のてんかんについて:

  てんかんの年齢別発症率は、乳児期・小児期をピークに一旦低下しますが、高齢期になると再び増加に転じ、乳児期・小児期よりも発症率が高くなることが知られています。高齢化社会が進む日本では今後も患者さんが増えていくことが予想されます。高齢発症のてんかんの病因は、若い人たちとは異なり脳梗塞などの脳血管障害が全体の30-40%占め、頭部外傷、アルツハイマー型認知症などが続きます。症状も特徴的で、半数以上は痙攣をきたさず、ぼーっとした症状が主です。また発作後のもうろう状態が数日にわたって遷延し、認知症と間違えられることがあります。治療をしないと再発率が66-90%と高率であり、非痙攣性てんかん重積(痙攣がなくぼーっとした状態が続く)も起しやすいですが、脳波検査でてんかん性異常が見つかる感度は70%程度であるため、疑わしい場合は脳波検査を複数回行う必要があります。なお、高齢者てんかんは比較的薬物治療への反応性が良いと言われています。

 日赤病院で担当した患者さんを例に挙げますが、突然風呂上がりから意思の疎通や動作がおぼつかなくなり、なんとなくぼやーとしているとのことで私に診察依頼が来ました。紹介元の科では元々持っていた腫瘍の脳転移が疑われ頭部MRIを撮られていましたが特に異常はみられませんでした。診察時は発症してから数日が経過をしており、話した印象では本当に認知症のようでしたが、急に発症したということが気になり脳波検査を行ってみたところ、不規則な徐波が出現しておりてんかんが疑われました。そこでほんの少量抗てんかん薬を投与したところ、数日で見違えるようにはっきりとし、脳波も正常化傾向がみられました。一週間後の再診時に、外来にスタスタ歩いてきてハキハキ物を言われたときは、うれしさとともに高齢者てんかんを疑ってみる重要性をあらためて噛みしめたのでした。

  

7.医療・福祉サービス:

 まず自立支援制度についてですが、医療費の自己負担分が1割になり、更に低所得者に負担にならないように所得に応じた負担上限が設けられています。これにより新しい薬(通常高いが副作用は少ない)を使用しやすくなるため、てんかんと診断されたら利用をすすめています。

  次に手帳制度についてですが、てんかんの場合は精神保健福祉手帳の対象で、一定以上の障害があり初診日から16ヶ月経過しないと申請できませんが、所得税、住民税の控除などのメリットがあります。

  障害年金には、基礎年金、厚生年金、共済年金がありますが、初診から16ヶ月経過していて別に定める要件を満たしていれば受給可能になります。ただ日常生活能力によっては非該当とされる場合もあるようです。

  福祉サービスが必要な方は市町村が実施している障害支援区分認定を受けることで、区分に応じて様々なサービスを受けることが出来ます。

  就労を希望される方は、ハローワークに相談すると相談員が対応してくれます。