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事務ブログ その不眠は『不眠症』ではないのかも?!

[2025.05.02]

皆様、こんにちは。ちゃたに脳神経すいみんクリニックの医療事務です。

4月5日(土)に芦屋市で開催された『第2回OSHNetスリープセミナー』に今回も参加させていただきました。

このセミナーを開催するNPO法人OSHNetは、睡眠についての正確な情報や、睡眠に関連する疾患についての正しい知識を、医療従事者のみならず一般の人々においても広めることで、あらゆる年齢層の人々が良い眠りと目覚めを実現し、より充実した生活が送れるようにという目的で活動しています。

日本の睡眠医学において最先端で活躍している関西電力病院の睡眠関連疾患センターの医師、検査技士の方々のお話が聞けるのですが、

 

 

今回のテーマは、『不眠』。

 

まるで見えていると思ってかけていた眼鏡に曇り止めを塗ってもらった気持ちになって帰って来ました。

さて、みなさんは、『不眠症』とはどんなものだと思いますか?

 

「眠れないことでしょ」と前の私なら即答です。

 

しかし、「眠れない」『不眠という症状』であって『不眠症』とイコールではないんです!

 

セミナーの中で関西電力病院の睡眠関連疾患センター立花先生より、「不眠」と「不眠症」という言葉がいかに正しく使い分けられていないかというお話があったのですが、正直、私も正しく理解していませんでした。

「不眠に悩んでいて、それがなかなか改善されず慢性的に続いている状態が不眠症である」と思っていたのです、、(睡眠クリニック事務としては恥ずかしい気持ちでいっぱいですが、でも皆さんも、なんとなくそれくらいに思っていたりしませんでしょうか?)

 

この図は睡眠医学の研究者であるモーリス・M・オハヨンという睡眠医学の研究者の「不眠」の有症率と有病率を表したデータです。(Epidemiology of insomnia OSHNetスリープセミナー改変資料)

これは不眠の患者全体のおおまかな割合を表しているのですが、このピラミッドを見ると、「不眠」で悩まれている患者さんの大半は「不眠の症状に罹患している」状態であり、

実際の『不眠症』の患者さんは少ないのがわかります。

                

 「、、、じゃあ『不眠症』とは?」

 

 『不眠症』とは、なかなか寝付けない、または十分な睡眠がとれない状態が続いておりかつ 十分な睡眠の機会や環境があるのにかかわらず、日中の機能障害(※1)がある場合であり、

 他の睡眠関連疾患(※2)、内科疾患、精神疾患、薬物/物質の使用で説明がつかないこと、という定義がされています。

  つまり、わかりやすく言えば、

 ・入院中や旅行、一時的な心配事、ストレスなどで寝れなくなった

 ・寝るための時間はあって、眠ろうとしたら眠れるけど受験勉強や夜中の活動のため睡眠時間が無い

 ・夜勤勤務であったり、介護で夜間起こされる、子供の寝起きで寝れない環境で寝れない

 ・毎日基本数時間しか眠れてないけど、特に日中支障はない

 ・他の睡眠関連疾患や内科疾患、薬やアルコールの影響で充分眠れない

 ・うつ病など精神疾患によって眠れない

などの場合は、『不眠症』ではなく、「不眠」状態であるということです。

 

※1 日中の機能障害・・・疲労感、気分の低下、倦怠感、認知機能障害など

※2 睡眠時無呼吸症候群、レストレスレッグズ症候群、概日リズム障害、ナルコレプシー、睡眠時随伴症(パラソムニア)等

 

でも、それがどうした、患者の立場からしたら眠れないのを眠れるようにして欲しいのだから、不眠であれ、不眠症であれどちらでもいいじゃないか!

そんな風に思われるかもしれませんが、私は、こういう知識や基本的な睡眠生理は、一般の私たちも理解しておきべきだと思います。なぜなら、前回のブログでも書いたのですが、

「睡眠不足が当たり前」「現代社会で生きるには不眠が増えていくのは当たり前」と、仕方ないことと思い込んで治療法を探しているような気がして、違和感を感じるからです。

 本来人間の体は、ちゃんと日中に支障もなく活動ができるように素晴らしい生理学的なメカニズムを 持っていて、「眠れない」というのは通常ではなく異常事態です。

「不眠」の状態の理由は = つまり、「本来あるべきメカニズムの崩れ」の状態

 であって、それをまずは整える方法を探すことが第一なのではないでしょうか

 

 

 みなさんは「眠ることができる環境」にいらっしゃいますか?

 「。。。(心地よい寝具とか、早寝早起きってこと???) 」

 それを根本から考えようとすると、やはり睡眠のメカニズムなどの知識が必要になってきます💡

 『覚醒』『睡眠』の関係はシーソーに例えられます。

 真ん中シーソーの左上のところを見ていただきたいのですが、この『覚醒』と『睡眠』の切替を正常に機能させるには、2つの重要なことがあります。

 ひとつは、【概日リズム:Circadian rhythm】。上図では頭文字のCをとって「概日リズム Process C」となっています。これは前回のブログでも書かせていただいたのですが、暗くなると分泌されるメラトニンの増減による仕組みです。日光の当たる日中は、脳の中央にある松果体にあるメラトニンが減り、夜になるとこのメラトニンが増えます。この物質の増減で私たちは地球のリズムと生体リズムを調整し、朝になったら起きて働き、夜になったら眠るということができているのです。(ちなみに前回のブログは →こちら

 

 ふたつめは、【スリープドライブ:Sleep Drive】。 頭文字のSをとって、上図では「恒常性 Process S」と表されています。これはアデノシンという物質が脳内に溜まっていくと眠たくなる仕組みです。私たちの脳が活動している間、エネルギー分子であるATPが分解され、アデノシンの脳内での濃度が高くなっていくと眠たくなるようになってるのです。つまり、起きている時間が長いほど眠くなる仕組みです。そして睡眠中にこの溜まったアデノシンは分解されるようになっており、脳内の濃度が低下するため、よく眠れた日はすっきりと目覚めることができ、1日元気に活動ができるわけです!

 

このふたつが働くことで、夜になったら眠くなる、睡眠時間が足りなければ眠気が強くなって睡眠時間を増やそうとするつまり『安定して自然に眠れる』のです!!

 

(ちなみに、睡眠中のレム睡眠とかノンレム睡眠とかの切替や覚醒時には、沢山の神経物質が相互に抑制や作用しているんですよ。詳しく知りたい方は、この本を読んでみて下さい。2年前に院長にお借りして、私は初めて知ったのですが、そこから脳の、というか人間の体自体にどっぷり興味を持ってしまいました。

過去には自分の肝臓が右と左どっちにあるかすらも興味がありませんでしたが。)

 

さて、ではもう一度先ほどの図をご覧いただきたいのですが、このシーソーの絵の左上にある「概日リズム」と「恒常性」によって「睡眠ー覚醒リズム」が生じているものの、周りにある他の要因もこのリズムに影響を与えてしまいます。

そうです、この「本来あるべきメカニズム」を崩す原因とはもうとにかくいっぱいあって、それも複雑なのです。人によっては要因がひとつではなくいくつも重なっていたりするわけで、睡眠専門医はまず、このシーソーの絵を思い浮かべて睡眠ー覚醒リズムを邪魔する要因がないかを一つ一つ検証しているそうです。

睡眠を邪魔する要因があればそれに対処しないと不眠の治療はうまくいかないのです(睡眠薬で解決しない)。

睡眠関連疾患の合併の有無、睡眠環境や生活習慣などに問題がないかは当院で調べて参りますが、

「ストレスや心理的要因」「精神疾患(うつなど)」が関与している場合は、他院の心療内科や精神科に受診していただく必要があります。

これらの睡眠を邪魔する要因をなるべく取り除くことをしないと「不眠症」かどうか判断できないということです。 公園にあるシーソーに、錆がこびりついていて、鎖が巻き付けてあったら、それをまずほどいて、錆を落としてからでないと動くのかどうかすら見極められないのです。

 

そう考えると、睡眠専門医はその経験と知識をもとに、絡まった糸玉をほどくがごとく、ひとりひとりの患者さんの不眠の要因を見つけ出し、それに合った治療法を提案しているということがよくわかりますし、またその為には、かなりの経験や勉強がいるということも今回のセミナーでわかったことでした。(院長がさまざまなの専門分野での勉強を常に続けている理由も、そこにあるのだなと納得です)

 

 と、ちょっと長くなってしまったのですが、今回はセミナーで取り上げられた『不眠』について、私が学んだことや思ったことを書かせていただきました。

 「睡眠のメカニズムの知識」を理解することは、本来の『自然と眠れる』状態への近道であると信じています。

 そして、こんな複雑でよく出来たメカニズムを自然に持って産まれて生きていくという生物の神秘に、魅了されて囚われて、夢でまで考えてしまいそうです。

 

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