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不眠症診療セミナー

[2024.09.13]

昨日不眠症診療セミナーが行われ、藤井循環器内科の藤井雄一先生と共に座長を務めさせていただきました。

 

講演Iの発表者は瀬野川病院薬剤課の桑原先生で、ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系睡眠薬について、薬理作用から身体への影響について詳しく解説されました。

(*非ベンゾジアゼピン系睡眠薬はベンゾジアゼピン骨格を持たないことからベンゾジアゼピン系睡眠薬と区別されていますが、脳にあるベンゾジアゼピン受容体に作用する点で共通しており、まとめてベンゾジアゼピン受容体作動薬と呼んで同一視する考えがあります。ベンゾジアゼピン受容体作動薬が結合する先であるGABAA受容体αサブユニットには睡眠だけでなく依存や筋弛緩に関係するものがあり、全てのベンゾジアゼピン受容体作動薬は程度の差はあれそれらに影響すると考えられています。)

 

ベンゾジアゼピン系睡眠薬の長期投与における影響についての研究はあまりないものの、骨折などのリスクについては非ベンゾジアゼピン系睡眠薬を含め複数報告があり、ふらついたり転倒歴がある患者さんを中心に、積極的に減薬・中止に取り組んでみることを提言されました。

実際に瀬野川病院では病院をあげてベンゾジアゼピン受容体作動薬の減量・中止に取り組んでおり、既に入院患者さんにおいてトリアゾラム(ハルシオン)、フルニトラゼパム(サイレース)、エチゾラム(デパス)、ゾルピデム(マイスリー)の新規投与は中止されているとのことでした。

代わりに使用が増えてきたのがオレキシン受容体拮抗薬**であるレンボレキサント(デエビゴ)で、筋弛緩作用がなく依存性も低いため入院患者さんにおいて最も使用されているそうです。

(**オレキシンとは覚醒系神経核を制御している物質で、オレキシンが脳にくっつく受容体を邪魔して眠くさせるのがオレキシン受容体拮抗薬です。)

 

認知症と睡眠薬との関連についても述べられ、最近の研究ではあまり関係はないだろうとされているそうです。今後も着目していきたい事項ですね。

 

講演IIでは広島大学精神科の倉田明子先生がご発表されました。

不眠症について、疫学・身体への影響・診断・治療にわたって幅広くご解説いただきました。

個人の年齢に比して睡眠時間が足りない場合は様々な影響が体に及ぶわけですが、倉田先生がまず強調されましたのは、「その”眠れない”は不眠症か」という、根本的かつ重要な項目についてです。

不眠症は睡眠関連疾患国際分類第3版(ICSD-3)において、①眠る機会や環境が適切であるにもかかわらず、②睡眠の開始、持続、安定性、質に持続的な障害があり、③その結果、何らかの日中の障害を来す、と定義されています。

加齢と共に睡眠時間は減少し中途覚醒が増えるため、もし若いときに比べて”眠れない”と感じても、日中の行動に影響がなければ不眠症とは言えず自然な変化かもしれません。それを病気として捉えてしまうと、ギャップに自ら苦しんでしまうことになります。

臨床の現場では、18時などえらく早い時間に眠くないけど入床してしまってなかなか寝付けない、20時頃寝入るけれど2時に起きてしまってそこから眠れない、などという訴えもよく聞きます。総睡眠時間は年齢相応でも、入床・入眠のタイミングを誤ると、苦労することになります。ですので、いつ入床してるかなど睡眠状況の確認が重要性であると述べられていました。

当院は脳神経内科ですので、上記に加え、レストレスレッグズ症候群(むずむず脚症候群)、睡眠時下肢周期性運動異常、いびきなどの睡眠関連疾患の合併の有無について、初診時に必ず問診しています。飲酒や喫煙、カフェイン摂取(コーヒー、紅茶、緑茶など)の状況も尋ねています。これらに問題があると睡眠薬を投与しても改善に結びつかないため、非常に重要な情報です。

不眠についての評価が終わった後は、睡眠衛生指導(スリープヘルス指導)を行います。先生は厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針 2014」を用いているとのことでした。

その上で必要があれば薬物治療に入るのですが、日米ともに睡眠薬使用のガイドラインでは、ラメルテオン(ロゼレム)、オレキシン受容体拮抗薬(デエビゴ、ベルソムラ)、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(ゾルピデム(マイスリー)、エスゾピクロン(ルネスタ)、ゾピクロン(アモバン))が推奨されており、ラメルテオンとオレキシン受容体拮抗薬が、依存・耐性・健忘が比較的少ないとされています。高齢者の場合は、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2015」において、ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系睡眠薬系ともに「特に慎重な投与を要する薬剤」に分類されているので注意が必要です。

睡眠薬を処方する場合は、ゴール設定を意識することが重要と言われます。

誰しも急性のストレス(身体的、精神的なものを含む)で一過性の不眠を生じうるわけですが、ストレスに対処できると再び眠れるようになります。しかし、眠れないといけないという考えにこだわったり、今日は眠れるだろうかという不安が強かったり、寝ることで不安から回避しようとすると、不眠が慢性化する恐れがあります。この様な時、不安の本質は何かを明らかにして共有した上で、依存性の少ない睡眠薬から投与を開始したり、不安が強い場合はあえてベンゾジアゼピン系睡眠薬をすることもあります。例えば、明日の検査が不安で眠れないという場合は後者を選択した方が良いかも知れません。このあたりの対処は精神科医が得意とするところでしょうね。当院では不安がかなり強い場合、うつ病を合併している場合は精神科医に紹介しています。

不眠が改善すれば、話し合った上で睡眠薬の減薬や中止を目指していきます。ベンゾジアゼピン受容体作動薬はゆっくり減らしていく必要がありますが、オレキシン受容体拮抗薬やラメルテオンは必ずしもそうしなくても良いとされています。ただ、重度の不眠症で治療を継続しなければ日常生活に支障が大きい場合や、睡眠薬をへらすことでアルコールなどへの依存が増えてしまうリスクがある場合などに限り、睡眠薬の長期使用が許容されるとガイドラインで述べられているとのことでした。

総合ディスカッションでは、各先生方がそれぞれのお立場や経験から臨床的に非常に有用な話をされ、Webからも重要な質問をいただき、私自身も大変勉強になりました。この場をお借りいたしましてあらためて御礼申し上げます。

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