睡眠中のみのてんかん発作と運転について
今年2022年にNeurology誌に発表された論文です。何をもって“睡眠てんかん”とするかについてはこれまで研究によって意味するところがばらばらで統一されていなかったため、前向きコホート研究を通して新たにその定義を定めるとともに、運転をどのくらいの期間控えれば良いのかについて意見が述べられています。
【対象と方法】
睡眠中に初めて非誘発性発作(熱や薬などの誘発因子がない)239名を対象に平均8.8年追跡を行いました。
【結果】
最初の睡眠中の発作のほとんどは強直間代発作(意識を失って手足がつっぱる発作)でした。72.8%が発作を再発し、そのうちの74.7%が睡眠中の再発でした。つまり2回目の発作のほとんどがまたしても睡眠中でした。ただ最終的には42.1%の患者が覚醒時に発作を起こしました。
覚醒時に発作が起きる累積リスクは、1年目で13.9%、2年目で19.3%、10年目で42.1%であり、ほとんどが最初の3年以内で特に最初の1年で発作が起きやすく、その後の年間リスクは2-5%と低くなって長期に継続していました。2回目、3回目の連続した睡眠中の発作から1年以内に覚醒時の発作を起こすリスクは、それぞれ9.9%、8.7%と低くなりました。
【考察】
以上により、“睡眠にのみ発作が生じるてんかん”(純粋睡眠てんかん)を、
- 睡眠中のみの発作が3回連続しておりこれまで覚醒時に発作を起こしたことがない
または
- 睡眠のみの発作が3年連続しており覚醒発作の年間リスクが5%以下に低下している
と定義できると述べられています。
運転については、睡眠中のみの発作である場合、オーストラリアでは12ヶ月経てば運転可、ニュージーランドでは3年、日本では2年となっています。
この論文では上記の結果から、睡眠中のみの発作であれば12ヶ月経てば運転して良いのではという考えが述べられていますが、一方で覚醒時に発作を起こすリスクが低いながらも長期にわたって続くことも強調してありました。
今後日本でもルールが変わるかもしれませんが、今のところは2年待つ必要があり、睡眠中のみの発作だからといって覚醒時に発作を起こさない訳ではないということは頭に入れておいた方が良さそうです。
本文にも述べられていましたが、一般人の睡眠時間不足による事故の相対リスクは、覚醒時の発作リスクが年間20%あるてんかん患者さんと同等とのことで、てんかん発作だけが特別なわけではありません。道路交通法第66条にありますように、「何人も体調などで正常な運転ができない恐れがある状態では運転をしない」ように気をつけることが大切だと思います。