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夢中遊行について

[2024.10.13]

関西電力病院とのオンライン勉強会で用いているSleep Medicine Pearlsは、米国の専門医試験向けの医学書で、非常によくまとまっています。

今回は臨床でよく遭遇する、夢中遊行(Sleep Walking:ベッドから出て歩き回るが本人は覚えていない)とレム睡眠行動異常症(RBD:REM睡眠期に夢内容に応じて体が動いてしまう)について、本書を引用して解説したいと思います。

まず基礎知識ですが、これらはまとめてパラソムニア(睡眠随伴症)と呼ばれます。

さらに、夢中遊行はREM睡眠中には生じないためNREM(ノンレム)パラソムニアに分類され、RBDはREM睡眠中に生じるためREMパラソムニアに分類されます。NREMパラソムニアには、他に錯乱性覚醒(Confusional Arousal)、睡眠時驚愕症(Sleep Terrors)があります。

ノンレムパラソムニアの特徴

・目は開いていても意識がしっかりしていない

・記憶が無いかあっても部分的

・小児では最も深い睡眠ステージであるN3から、成人ではN1、N2、N3からの不完全な覚醒で生じる

・成人のNREMパラソムニアの場合、2/3の人が小児期にもノンレムパラソムニアを経験している

・家族歴がみられる傾向にある

・通常精神疾患や頭部外傷とは無関係

・ストレス、睡眠時間不足、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、薬、小児においては発熱が誘発因子

・大きな音がしたり、触るなどの刺激で誘発されるかもしれない

 

NREMパラソムニア患者のうち、成人になって発症するケースが1/3あり、配偶者から指摘されて受診されることをしばしば経験します。

夢中遊行は錯乱性覚醒から始まってベッドから出て歩いてしまうもので、単に歩くだけから危ない行動まで幅広くみられます。大抵目は開いていますが生気の無い目をしており、動きもぎこちなさがあります。しゃべることもあります。

小児の10-20%に生じるとされ、そのピークは4歳~8歳で多くは思春期には消失しますが、成人になっても残ることがあります。

子供の場合は動作もゆっくりで暴力的ではありませんが、成人の場合は動作が複雑になり、暴力的になって持続も長いと言われています。事件につながったこともあります。

誘発因子として、発熱、睡眠時間不足(リバウンドでN3が増えてしまうため)、薬(ゾルピデム(マイスリー)、その他のベンゾジアゼピン受容体作動薬、三環系抗うつ薬、リチウムなど)があげられています。

寝ぼけて押し入れでおしっこをしてしまうというのもこれにあたります。成人ではアルコールが関係していることが多く、海外旅行にいって寝不足で酒をのみ、さらにベンゾジアゼピン系の睡眠薬を服用したところ、部屋の中で排尿してしまった症例が関電病院であったそうです。私も、友人が突然起き上がりぶつぶつ何かを言いながら部屋で排尿したところを目撃したことがあります。また、糖尿病を診ている施設から夜中に起きて食事をとってしまう症例の紹介が時々あり、ゾルピデムを飲んでいる例が多かったとのことでした。

治療としては、まず睡眠時間不足などの誘発因子を避けることが基本です。通常薬での治療は行われませんが、危険な行動をするケースには検討することはあり得ます。睡眠時無呼吸症候群を合併している患者には、その治療が有効であるという報告がありますので、まずはご相談ください。

レム睡眠行動異常症(RBD)の特徴

REM睡眠中には、夢をみても動き出さないように筋緊張が最も低下しますが、その機構が失われ夢内容を演じてしまう疾患です。通常暴力的な嫌な夢をみます。敵を蹴ろうとして実際に脚が動いて怪我をしてまったり、ベッドパートナーを怪我させてしまうなどの問題があります。男性に多く発症年齢は50歳頃で、先行して寝言・手足が動く・鮮明な暴力的な夢の出現が見られることがあります。

診断には終夜睡眠ポリグラフィー(PSG)が必須で、RBDと思っていたら実は睡眠時無呼吸症候群の無呼吸からの微小覚醒時の行動だったという論文がありますので、鑑別が重要です。当院にはクッション性のある畳敷きの怪我をしにくい検査室の用意があります。脳波と同時にビデオで睡眠の様子を記録しますので、何か行動があれば見て頂くことが出来ます。

慢性的にみられるRBDのうち60%は原因不明(特発性RBD)ですが、多発性硬化症、くも膜下出血、脳梗塞、脳幹部の腫瘍などが原因として判明する場合もあります。ナルコレプシーやαシヌクレイノパチー(パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症など)との関係は多数報告されています。原因不明とされた特発性RBD患者のうち81%が13年間でパーキンソン症状を発症したという論文があり、私もRBDを主訴に来院した方が既にパーキンソン病を発症していたケースを複数経験しています。。

薬によって誘発されることがあり注意が必要です。MAO阻害薬、三環系抗うつ薬、SSRI、SNRI,、セレギリン、β拮抗薬での誘発/増悪例があります。RBDが急に生じたり悪化した場合は、これらの薬の増量やアルコールなどのREMを抑制する物質からの離脱が原因である可能性があります。ただ、薬で誘発されたRBD患者は、後にパーキンソン病などになりやすい人ではないかと考えている臨床家が複数います。

RBDの治療でまずすべきは環境整備です。クッションをひいたり危険物を遠ざけたりパートナーと別々に寝ることなどが行われています。薬で最もエビデンスが強いのはクロナゼパム(リボトリール)です。0.5mg~2mgを眠前に服用することで、80~90%抑制されると言われています。ただ筋弛緩作用があることから舌沈下に繋がって睡眠時無呼吸症候群を悪化させるリスクがありますので、適応を考えて処方しています。

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