関電睡眠カンファ2024年4月
ほぼ毎週webで行われているSleep Medicine Pearlsを使った勉強会ですが、ブログへの反映が滞っておりすみません。
今回はPatient 96(Insufficent Sleep)でした。そう、睡眠時間不足のケースです。
23歳の大学生の女性で、眠気と疲労感を主訴に受診されました。
自覚的な眠気のスケール(Epworth Sleepiness Scale)では12から14点と、軽度~中等度の眠気がありました。
睡眠薬は飲んでおらずカタプレキシー(ナルコレプシー1型でみられる情動脱力発作)はありません。
受診したときはSleep-wake log(睡眠覚醒日誌。当院のホームページからダウンロードできます)の持参を忘れたそうですが、夜にSNSを楽しんではいるものの普段は0時30分から7時30分まで7時間眠っているとのことでした。
この方はアクチグラフを身につけている方でしたので、そのデータを見てみると、
・翌朝にテニスの練習がある日(週に3日):午前2時頃消灯はしているものの午前3時くらいまで体が動いている様子がみられる。起床は7時すぎ。
・それ以外の日:消灯は3時と遅くなり、4時まで活動している様子。起床は9時30分~10時頃。
で、’7時間寝ている’という申告とは異なった実態でした。また、この方は金縛りと入眠時幻覚(共にナルコレプシーで見られやすい)が希ながらあるとのことでした。
終夜睡眠ポリグラフィー(PSG)と睡眠潜時反復測定検査(MSLT:1回20分程度の昼寝を2時間おきに5回繰り返す検査)を受けた結果がこちら。
PSG:
総睡眠時間 460分(7時間40分)、
睡眠潜時(寝付くまでの時間:正常3-20分)2分、
睡眠効率(ベッドにいる時間のうち実際に眠った割合)98%、
REM潜時(REM睡眠期になるまでの時間)75分、
睡眠ステージについては、REM睡眠期が35%を占めました(通常22-29%)。
MSLT:
1回目:2分
2回目:5分
3回目:10分
4回目:12分
5回目:20分(眠れなかったため打ち切り)
平均睡眠潜時:9.8分
入眠時REM睡眠期:1/5回(初回のみREM睡眠期が出現。ナルコレプシーでは2回以上出現。特発性過眠症では1回以下。)
問題:この患者は特発性過眠症でしょうか?
答え:睡眠時間不足と睡眠相の後退
解説:アクチグラフをみると、翌朝にテニスの練習がある日は4時間睡眠と睡眠時間が短く、そのほかの日は4時入眠、10時起床と、睡眠相の後退がみられました。PSGでREM睡眠期の割合が多かったのは、普段の睡眠時間不足からのリバウンド効果、すなわちREM睡眠期の大部分を占める睡眠の後半部分に、十分睡眠を取っていないことによって引き起こされたためと考えられました。
また、MSLTでは最初の2回のみ睡眠潜時が短く、入眠時REM睡眠期も最初の1回のみで認めました。これは睡眠相が後退していることを示しています(注:この症例は睡眠相後退症候群(DSPS)ではありません。なぜならDSPSであればPSGで睡眠潜時が長くなるはずで、あくまで睡眠相の後退と睡眠時間不足であると考えます。睡眠潜時がかなり短く、睡眠効率)。
ナルコレプシーや特発性過眠症は、平均睡眠潜時が8分以下である必要があり、この方はその基準を満たしませんでした。また5回目に全く入眠できなかった点も過眠症らしくありませんでした。睡眠時間が週3回著しく短くなるのにこの基準をクリアできなかったところも、過眠症を考えにくい所見でした。
この方がなぜ普段夜更かしをしているかというと、親に内緒の彼氏(secret boyfriend)がいて、夜中にテキストメッセージを送っているからでした。こうなると医療機関側としては、ほどほどにしとこうね・・・、という他ないですかね。
ちなみに、金縛りと入眠時幻覚は、過眠症だけでなく健康な人にも生じます。金縛りは睡眠時間不足になると生じやすいとされています。